皆さんこんにちは。旭川医大麻酔科 笹川です。当教室では神経ブロックの知識、手技の向上を目的としてチーム制を早期より取り入れ、教育・研究・臨床に責任をもって取り組めるような人材育成を心がけ日々切磋琢磨しています。
 
超音波ガイド下神経ブロックの手技はこの5年で急速に進歩、普及しました。しかし基本的な知識を持たないまま臨床にのぞむ方が少なからずいることを少々危惧しています。
超音波ガイドで神経ブロックを行えば全ての合併症がなくなるわけでは決してありません。また、正確な解剖学的知識、薬理学的知識がないままに神経ブロックを行えば、神経の局在を理解できず、効果不十分なブロックとなり患者を苦しめることにも繋がるでしょう。
このような観点から、一般的知見、基本的知識の習得は急務であります。チーム内で同一の見解を共有することによってチーム内の意思統一を促し、共通の認識で問題解決できる能力を養いたいと考えてきました。
 
そのため旭川医大神経ブロックチームでは定期的な勉強会を行ってきていましたが、更に目標を持って学習をすすめてもらうよう、欧州区域麻酔学会が主催する認定医制度 European Diploma in Regional Anaesthesia and Pain Therapy(EDRA)に挑戦してきました。
 
EDRAはマルチプルチョイスによる筆記試験のpart Iと試験管二人による面接試験のpart IIからなり、一年に一つずつ計二年間にわたる試験です。
 
Part Iの受験資格は二年間に及ぶ麻酔科としてのtraining programを受けていることESRA主催のワークショップもしくはCMEクレジットのついているワークショップを最低一つ受講しているESRAの会員であることESRAの年次学術大会に参加すること とそれほど厳しくありません。
 
part IIの受験資格は更に厳しく、Part I合格から3年以内であること。150例の脊髄幹ブロック(硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔、CSEA)150例の末梢神経ブロック(上肢75例、下肢75例)その他のブロック30例(傍脊椎ブロック、腹壁ブロックなど)の経験があること最低一つのESRAワークショップを含む3つのワークショップの受講(一つはcadaver workshopが必要)をしていることが必要となります。
 
当院ではそれほど偏りなく上肢、下肢、体幹のブロック症例があり、安定して症例数を経験することができることがハードルを下げてくれました。以下のリンクに詳しい要件が記載されていますのでごご覧ください。
 
 
Part I については他のメンバーがすでに経験談をたくさん書いてくれていますので、私は今年度受験したPart IIの試験について具体的に記載します。
 
試験は ESRA の annual meeting 前日、ホテルの部屋数室を貸し切って行われました。受験生は番号を割り振られ、試験の行われる部屋と試験官はすでに決まっていました。私の試験官は教授クラスと思われる初老のイギリス紳士とポルトガルからの美しい女性の先生でした。
試験開始までロビーで待つと女性試験官が呼びに来てくれます。私、日本語の名前が読めないわというので、読みにくかったら Tomokiだけでいいです。と雑談。部屋に入ると細長い机に試験官二人と自分の椅子、机の上にはかごが置いてあり、折りたたんだ白い紙切れが何個も入っています。反対側にはブロックのモデルとなる模擬患者さんが寝ています。超音波装置や電気刺激装置はありませんでした。
 
自己紹介をし、日本からの受験生は初めてだったようで日本について少しお話した後,「さあ、きみのラッキーカードを選んでくれ」とかごに入った白い紙切れの中から一つを選ぶよう指示されました。実は二次試験は前半15分、後半10分の二部構成なのですが、前半15分は実際の模擬患者にどのようにブロックを行うかについて口頭で問われます。その際のテーマは合計14種類設定されているのですが、その内の一つをくじ引き(!)で選ぶのです。
私が意を決して選んだ紙。そこには「Thoracic epidural analgesia」の文字。やばい完全にヤマを外した(泣)オワタ。。。他の末梢神経ブロックの単語などは一生懸命覚えてきたのに硬膜外関連の単語は後回しにしてしまっていたのです。末梢神経ブロックのみならず、ブロックやペイン領域もまんべんなく試験範囲に含まれるんですね。まさか本当に試験にでるとは思わなかった。14テーマ全て押さえておく必要がありそうです。
 
それでも、かのやさしいイギリス紳士が問題をいろいろ誘導してくれます。「どんな症例で行うか?」「禁忌症例は?」「実際に患者さんに説明して体位をとってみよう。」などなど。更に試問は続き、「Loss of resistance法で確認するのか?」「利点は何だ?」「カテーテルは何センチ入れるんだ?」「抵抗感はあるのか?」「test doseは何を使うんだ?」
日頃の臨床では当たり前の様に行っていることも英語で説明しながらとなると意外に難しいものです。今後旭川医大のブロック公用語は楽天のように英語にしようと心に誓った瞬間でした。
 
この前半の試験のようにブロックの手技を英語で説明ために勉強していて良かったと思われた教科書としてAdmir Hadzic著 Hadzic's Peripheral Nerve Blocks and Anatomy for Ultrasound-Guided Regional Anesthesiaを挙げておきます。Landmark法はもちろんのこと、第二版では ultrasound を用したブロックの方法も記載していますし、実際のブロックの進行に合わせて書いてありますのでそのまま覚えていくような形でよいかと思います。iPad版もあって携帯に便利です。
 
後半は椅子に座って面接官達との会話のみで行われました。後半の試験は、試験官の提示する症例に対してどんなブロックを選択するか、どのような問題点があるのかをディスカッションします。
女性試験官から提示された症例は severe DM、coronary risk を有する高齢女性の下肢切断術。
私は全身麻酔と末梢神経ブロックを対比させて、末梢神経ブロック+sedation で行う方針について説明しました。
「なぜ末梢神経ブロックを選択するのか?」「末梢神経ブロックはどのアプローチを選択するか?」「アプローチはlandmark か超音波か?」「超音波を使います!」と答えると、では超音波で見える画像をここに書いてみろと図示するように聞かれました。「えー書くの!」と一瞬思いましたが、意外と書けるものです。このように日頃みている超音波画像を英語で説明できる力が必要となります。筋肉や神経の名前も日常の診療から英語できちんと覚えましょう。
 
ただ、この後半の試験をとりしきっていた女性試験官がやけに「ふーん、あっそ」という感じでにらんでくるのでありゃーこれはだめかなあと心配していましたが、約一ヶ月後emailで合格通知が送られてきました。実際の合格証書は更に一ヶ月後にオーストリアから郵送されてきます。さすがにオーストリアからだったからか、証書の四隅には折れ曲がったしわが!額にでもいれて飾りたかったのに台無しです。
 
目標をもって勉強をすることは漫然と学ぶよりも強いモチベーションを与えてくれます。
旭川医大ではEDRA取得に向けて海外での学会発表、ワークショップ受講など積極的に参加できますし、日々の臨床でもオールラウンドに神経ブロックの手技を経験することができます。来年のESRAはスペイン、セビリアで開催されます。ヨーロッパ旅行もかねてEDRA取得を目標に私達と一緒に学びましょう!