An embedded checklist in the Anesthesia Information Management System improves pre-anaesthetic induction setup:An embedded checklist in the Anesthesia Information Management System improves pre-anaesthetic induction setup: a randomized controlled trial in a simulation setting

 

 

Wetmore D, Goldberg A, Gandhi N, et al.BMJ Qual Saf 2016; 25: 739-746.

 

 

麻酔術導入準備の手順が完全ではなかったり、抜けがあったりというのは他人ごとではないと日々感じており、それを無作為化比較試験で検討した研究があったので読ませていただきました。

 

 

【概要】

・麻酔科医は高ストレス下にも関わらず、小さなミスが致命的結果につながる環境で働いている

・麻酔導入準備は、致命的ミスを防ぐうえで非常に重要な段階ではあるが、忙しさのあまり重要な手順が省かれることは珍しくない

(例:サクションや蘇生薬剤の準備など)

・チェックリストの使用がより質の高い麻酔導入準備の提供に有効でないかと考え、これを検証するモデルを構築し無作為化比較試験を行った

 

【方法】
・対象:麻酔科研修中の研修医38名

・方法:卒後年数別に、 チェックリスト群(手術用電子カルテの立ち上げにPIPS*チェックリストの完成が必要)と対照群に無作為割り付けした

・実際の手術場で人形患者と役者(外科医役、看護師役)を配置した模擬手術室を使用し、模擬シナリオで麻酔導入準備をさせた
(*Pre-anesthetic Induction Patient Safety)

・被験者は卒後1-3年を対象とし、計38名を、それぞれPIPSチェックリスト群と対照群に均等に割り付けた

・PIPSチェックリストから抜粋し、本研究で用いた11項目の例:

①サクションが準備されている ②麻酔器は100%酸素が供給され、陽圧をかけてもリークがみられない ③緊急蘇生薬剤(昇圧剤など)が準備されている
…など。

PIPSチェックリスト群では、これらが電子カルテシステム上にポップアップ画面で表示され、このチェックリストをすべてパスしないとシステムが起動できないように設定された。

・高ストレス環境の再現: 外科医と看護師と患者を演じる役者は、それぞれがシナリオ中に常に「早く準備を終えて麻酔を始める」よう、被験者の麻酔科医に強い圧力をかけ続ける。
・落とし穴:手術室の準備は大方整ってはいるが、意図的にいくつか抜け穴があるよう設定されている。

・サクションが接続されていない

・カプノグラフィ接続部から麻酔回路のリークが起きている

・自己膨張式デバイスとLMAが未準備

・喉頭鏡ブレードがカート内にしまわれたまま

・モニタが正しく接続されていない

・緊急蘇生薬剤が準備されていない ・ドレープと消毒が術側と逆側にかかっている (これのみPIPS checklistに存在しない)

 

【評価】・準備の様子はカメラで撮影され、麻酔科医2名が11項目を0~2点(22点満点)で採点し、2名の平均点を得点とした(主要評価項目)
・二重盲検化のため、被験者も評価者も、研究の目的は知らされなかった。評価者2名は、評価後に研究の目的を「圧力の有無による差の検証」と(誤って)推測した。これにより、研究の盲検化は保証されたと評価できる。

 

【結果と考察】

・チェックリストの使用と効果を判定するため、介入群と対照群は、複数回にわたり上述の評価を受けた。 T+0 (初回)と、T+24(初回から24週間後)の二回を主要評価の対象とした。
・T+0時点において、介入群と対照群の得点は、介入群が二倍近い差をつけ有意に高かった(16.79 vs 8.42, 95%CI 5.85-9.85, p<0.01)。しかし時間においては、介入群が対照群より長かった(386.84 vs 251.63 sec, 95%CI 63.23-197.25, p<0.01)。

・T+0時点において、チェックリストの使用は得点にして7.85点分の上昇効果があった。また時間にして130.24秒の延長効果があった。

・T+24時点においては、対照群もともに介入群と同じチェックリストを用いさせ、両群を同じ条件として変化を検証した。その結果、両群は同程度の得点を示した(17.25 vs 16.85, p=0.91)。また時間においても有意差がなかった(345.67 vs 375.75 sec, p=0.48)。

・T+24時点において、得点・時間の両項目において対照群が介入群と同等の結果を示した。これは対照群の得点と時間が群間の事前確率の差ではなく、チェックリストの使用によって生まれたものであるという因果効果を立証したと考えることができる。

 

【結果と考察】
研究で述べられていた結果に加え、「→」以降に私自身の解釈を付します。

・介入群においてはほぼ全ての項目を満点(2.0点)近くに引き上げた一方、対照群では項目ごとに平均得点にばらつきがあった。最も平均点の低い(忘れられやすい)項目は、リークテストであった。

→遭遇頻度が少ない事態(CVCIなど)への備えは、たとえそれがどんなに重要なものであっても忘れられやすい。

・卒後年数別の解析では、準備時間は有意に短縮した(1年めと3年めでは準備時間が約半分となった(441.25 vs 228.00 sec, p<0.01))。しかし得点には有意差が見られなかった。

→手際の良さと異なり、用心深さは習熟では身につかない。

・初回の試験(T+0)から第2回試験(T+24)まで24週間の空きがあったが、介入群の研修医はその間もしばしば、自主的にチェックリストを用いて準備を行った(研究目的は盲検化され、被験者はチェックリストが研究目的だとは知らされなかったにも関わらず)

→チェックリストの使用は、簡単に習慣づけできる。

 

 

以上が紹介となります。
検証結果もさることながら、チェックリストというものが、決まりきった手順の完成度に及ぼす影響をどう定量的に評価するか、という研究設計の部分でも非常に勉強となる研究でした。詳細は紹介しきれませんでしたが、特に本文における綿密な盲検化は大変参考になるものでした。

なお、当医局においても研修医向けのチェックリストが存在し、ローテーション中の研修医の皆様に配布され、ご活用いただいていることを付記いたします。