膠質液と晶質液の比較をする前向き無作為化比較試験の論文を読ませていただきました(Anesthesiology 2019)。

 

“Long-term Impact of Crystalloid versus Colloid Solutions on Renal Function and Disability-free Survival after Major Abdominal Surgery”

Joosten A, M.D., et al.

Anesthesiology. 2019 Feb;130(2):227-236.

 

 

『術中補液としての膠質液と晶質液の長期予後比較: 主要腹部手術における腎機能および無合併症率に関して』

といった意味のタイトルになるでしょうか。

ボルベンのようなHES(hydroxy-ethyl starch)は、晶質液よりも多い割合で血中にとどまることで、術中のボリューム減少を効果的に補うことが期待されていますが、一方で腎障害をはじめとする危険性の指摘1,2,3)が相次ぎ、その安全性への懸念が呈されることとなっていました。

 

しかし上記報告は長くても術後90日までの追跡にとどまっており、それ以上の期間にわたりアウトカムを比較研究した報告はこれまでのところなされていなかったため、膠質液vs晶質液での1年の前向き無作為化比較試験を筆者らが実施し報告しました。

 

筆者らによる、術後1か月での腎機能を比較した予備研究4)の対象者をそのまま引き継ぎ(n=160)、主要な腹部外科手術において、80名ずつの2群に無作為に割り付けました。

 

術中の輸液管理はGoal-directed fluid therapy方式に則り、SVV>12%ならば100mLの追加輸液を実施し再評価、15%以上のSV増加をもって輸液効果ありと判定し輸液を停止。輸液効果ないならば再度追加輸液を実施しました。

 

 

2群間で、維持輸液に晶質液(3 mL/kg/hr)を用いたのは共通ですが、追加輸液を

 

①晶質液群: 晶質液(Plasma-Lyte) 100mL

②膠質液群: 膠質液(Volulyte) 100mL

 

としたことが相違点となっています。

 

 

評価方法として術後1年までの腎機能(eGFR)、さらに合併症の発生率(WHO disability assessment score, WHODAS による)の二つを用いました。

 

結果:

・腎機能(eGFR)に関しては膠質液vs晶質液で有意差なし

(eGFR(ml/min/1.73m^2): 80 [65 to 92] vs 74 [64 to 94]; P = 0.624)

・合併症率(WHODAS)に関しては膠質液が有意に少ない

(WHODAS: 2.7 [0 to 12] vs 7.6 [1.3 to 18]; P = 0.015)

 

よって、従来からの指摘に反して、膠質液は腎機能に関して晶質液に劣らない一方で、有意に合併症を減らせることを示唆する結果となりました。

 

 

以上が論文要旨です。

 

 

このような結果になった背景に関しては、該当論文では深く踏み込んではおりませんでしたが、副作用の報告の多くが第一・第二世代HES製剤によるものであって、第三世代HES製剤への改良に伴いそれらを減ずる努力がなされてきたこと、特に腎機能障害に関して言えば、腎糸球体fenestrated capillaryの目詰まりによる糸球体ろ過量減少よりも、血管内容量維持による腎血流増加・糸球体ろ過量増加の寄与割合が大きいのではないか、とする私的意見もあるようです5)

 

 

普段身近で使っている輸液ではありますが、何気なく選択している製剤が長期アウトカムに影響を及ぼすことを考えると、一つ一つ根拠をもって選んでいく必要を感じました。

 

貴重な勉強の機会を与えていただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

1) Perner A, et al. N Engl J Med 2012; 367:124-34

2) Myburgh JA, et al. N Engl J Med 2013; 368:775

3) Muller RB, et al. Acta Anaesthesiol Scand 2015; 59:329-36

4) Joosten A, et al; Anesthesiology 2018;128:55-66

5) 宮尾秀樹 (2018) 「特集「術前、術中、術後におけるアルブミン製剤適正使用をめぐる諸問題」周術期輸液としての第3世代HES」『外科と代謝・栄養』第5号 p219-226